今年は あのね?
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 



その昔、これも綱紀粛正の一環か、
戦さの間は禁止とされていた兵士たちの結婚式を、
自分が立ち会い、こっそり挙げてやったことから死刑になったという。
聖バレンティヌスさんの命日…ということまで御存知なお人は、
果たしてどれほどいることか。

  2月14日、聖バレンタインデーがやって来た。

そんな敬虔にして尊いことが始まりの、
愛を誓い合う日…のはずですが。
日本では“チョコレートを添えて告白する日”として広まっており。
何でチョコかと言えば、製菓会社の販促運動だったから。
サンタクロースの衣装が真っ赤なのは、
某清涼飲料水の会社のキャンペーンのインパクトが大きかったからで、
節分にのり巻きを食べるのは、関西の海苔問屋の販促運動から。

  う〜ん、文化まで塗り替えるとは、恐るべし商いの手管。




     ◇◇



  …………でvv


 「で、ってのは何ですよ。で、って。」
 「……。(頷、頷)」
 「まあまあ。
  そんな訊きようなのだったら、
  こちらだって途惚けるのもありっていう解釈も出来ますし。」

あわわ。それは困りますぞ、白百合様。
まったくもうもう、基本的には余裕なんだから、お三人とも。

 「や、なっ、何が余裕ですって?//////」

いきなりカァッと頬やらお耳やら真っ赤になった、
ひなげしさんこと平八さんは。
柔らかそうなお胸をちらりと意識させるよな、
手入れのいいデコルテの部分が広めに開いたシルクのカラーTシャツに、
あんまりパンツは履かない彼女には珍しいデニンスと、
ざっくりした編み目の、
膝まであるニットのカーディガンというラフないで立ち。

 「今日はお店のお手伝いをしておりましたし。」

だって“当日”ですもの、
お友達とは別行動になっての、各々で過ごすことになっていて。
平八さんは、五郎兵衛さんの営む“八百萬屋”の、
お運びことウェイトレスに励んでおいで。
とはいうものの、

 「久し振りに暖かいお日和だったし、
  平日で、しかもしかも、
  何と言ってもバレンタインデー当日だったしで。」

甘味処をご贔屓になさるクチのお嬢さんたちは、
意中の相手と過ごすほうを優先なさっているものか。
さほどには混むこともないままだったので、

 「今年はあのあの。調理用のミトンを縫いましたvv」

チョコレートは皆でブラウニーを焼いたので、
それを渡すこととしていたけれど。
何をプレゼントしようかってところは、
これでも結構悩んだひなげしさん。

 「だってお料理もお裁縫もゴロさんの方が上手だし。」

でもでも、頑張って先にはエプロンを縫ったことだしと、
その線で頑張ることとし。
期末考査のお勉強と競争で、(こらこら)
キルティングから自分でやっつけての、
大きなお手々へ丁度いいサイズになるように。
頑張って縫い上げた二つ一組の大きなミトン。
ちょこっと手がすいた間合いを見つけて、

 『ゴロさんゴロさん、じゃんけんしましょう。』
 『おお、すまぬが負けぬぞ。』

カウンター越しに“せぇの”で手を出し合ってのじゃんけんぽんは、
偶然のこととて、パー同士のお相子で。
こちらはミトンをはめてたお手々をそのまま延ばすと、

 『今日だけはわたしの手のほうが大きいですよん♪』

そういう勝負じゃなかったはずなのに、
どうだと胸を張ったれば、
渋面作って“むむむ参った”と返してくれるノリも楽しい五郎兵衛さんへ、
そのまま“どうぞ”とプレゼントを手渡して、

 『自分で縫ったのか凄いなぁって褒めてもらいましたvv』

ぽふぽふってあの大きい手で頭を撫でて貰ったのvv
それって、どんなお菓子より甘くて嬉しかったのと。
頬を両手で包み込み、にまにま笑うところは さすがに素直。
そんなひなげしさんの傍らで、
微笑ましいなぁと目許をやや細めていた紅ばら様はと言えば、

 「? ……。」
 「いやいや大したことは…なんて誤魔化さないの。」

さすがは白百合様で、
寡黙な久蔵さんの心情もあっさりと読んでしまわれる。
ファーの縁取りつきフードのついた、大きめのダウン・ブルゾンに、
襟元がルーズなモヘアニットのトップスと、
レース仕立てのミニが何重にも重なったチュールスカートと。
彼女にしては甘いテイストな三木さんチの久蔵お嬢様は、

 「兵庫のところへ。」
 「診療所は休みじゃなかったでしょうに。」
 「昼は。」
 「あ、そか。休憩時間か。」

休診日であっても、急な往診にと出掛けてしまうことの多い榊せんせえだが、
平日はそういう呼び出しは案外と少ないのだそうで。

 「まあ、間違いなくおいでなのだし、
  診療器具も揃ってる診療所へ来たほうが
  ちゃんと診てもらえるしねぇ。」

とはいえ、看護師資格のない久蔵さんはお手伝いが出来る身でなし。
そこで…お昼前にお邪魔して、自宅のほうのキッチンを借り、
榊さんチの執事、各務さんの指導の下、
クラムチャウダーと、じゃがいもとコーンのキッシュを作った。
それからそれから、
皆で焼いたブラウニーをタンブラーグラスへちぎり入れ、
ココア風味のホイップクリームで隙間を埋めて、
ブルーベリーやラズベリーを散らした、
簡単ミニパフェを作って差し上げた。

 『ほほお、なかなか小技が利いているなぁ。』

手芸が得意なのは知っていたが、
このところでは料理も上達していて、
向上心があるのはいいことだぞと、

 「…何ですか、そりゃ。」
 「ガッコのせんせえみたいですのね。」

相変わらずなんだからと、いつまでも妹扱いのせんせえなのへ、
ちょっぴり不平の出たお友達だったれど。

 「〜〜〜〜〜。///////」

  お? 何かあったらしいですよ?
  あ、ホント。何ですよ、久蔵殿。

話しなさいってば、いや・あの、えっと…という、
可愛らしい綱引きのあと。

 「………。////////」

ついと、右手を延ばして来た紅ばら様であり。
何にも言わぬは相変わらずで、
だがだが、

 「…え? 手にキスしてくれた?」
 「え、え、凄いじゃないですかvv」

 「いやあの…。//////」

正確にはあのね、
手にホイップクリームがついちゃったのを、どらって見てくれて。
ホントにちょんという少しだったので、
舌先でぺろって、
せんせえにしてはお行儀悪かったけど、舐め取ってくれたのだとか。

 久蔵さんが どこだかなかなか気づけなくって、
 手をぐるぐると、あちこちからのぞき込んでるばかりで、
 埒があかなかったので つい…だったそうだけど

 「……。///////」

くうに舐められたみたいで くすぐったかった?
なんか微妙な表現ですよねぇと。
ひなげしさんも白百合さんも、どこか納得しかねていたものの、

 「指輪でも貰ったみたいですよね。」
 「うんうん、かわいいvv」

小指の外側という場所、何度も意識して見やってるところは、
なかなか かあいらしい紅ばらさんだったので。
そういうのも有りかなぁなんて、苦笑が絶えなんだとか。

 「で、シチさんはどうだったんですか?」
 「……。(そうそう)」

言っとくけれど、これでもわたしたち、
一番デートの機会が少ないシチさんなのを
心配しているんですよとひなげしさんが言い。

 「……俺は。」

案じているのは同じだけれど、
何だったらあんな甲斐性なしの壮年なんぞとっとと見切れという、
アンチな姿勢も変わらないらしい心配症なのが紅ばらさんで。
ボートネックにドルマン袖の、
大人っぽい柔らかなシルエットがシックな、
淡いベージュというアースカラーのニットのトップスに、
ウエストカットのジャケットと、
同じ色柄のアンサンブルなキュロットスカート、
足元はウエスタンブーツという、マニッシュさでまとめたお姿。
だというに、そこはかとない含羞みの香りがし。
そこに何かを見つけたらしい紅ばらさんが、

 「………。」

物問いたげに、だがだが“おねだりモード”で
紅色の双眸を潤ませたものだから、
たちまち困ってしまうところは罪がなく。

 「いやあの、だから…。」
 「何かありましたね、シチさん。」

判りやすいというか、そういや昔もあんまり、
ポーカーフェイスが出来なんだのでは…なんていう、
平八の鋭くも思いがけないツッコミへ。
いやいや、軍人時代は得意でしたって、
時に勘兵衛様でさえ煙に撒いておりましたしと。
何で今それを引き合いに出すのかよく判らないほど、
応用範囲の全く違うだろう武骨な話を持って来るほどに。
二人掛かりで慌てかかったのはともかくとして。

 “……だってだって。///////”

七郎次の想い人は相変わらずの警視庁勤務。
とはいえ、クリスマスと違って平日だったし、
年末レベルで慌ただしいということもない頃合いなので。
メールで連絡を取ったところ、今日は庁舎にいるとのこと。
そこで、3人娘で焼いたブラウニーと、
こそり五郎兵衛から教わったレザークラフトのキーケース。
可愛らしくラッピングして持参した、白百合さんだったのだけれども。

 『まだかなぁ。』

1階ロビーでの待ち合わせとあって。
大きな柱へ凭れたり、
時折足を上げての背後の壁を軽く蹴飛ばしてみたり。
七郎次には珍しくもお行儀は微妙に悪かったものの、
それもそわそわしてしまう浮き立つ心の為せる技。
人の出入りも多いからこそのそれ、
さわさわという声やら、
行き来する足音やらの満ちたロビーの一角で。
まだかまだかと待つこと数分。
申し送りを片付けてからだろう、
ずんと上階から降りて来た格好の島田警部補が、
エレベーターゲージから姿を現したのへ、

 『あ…。//////』

やだやだやっとお逢い出来ると、白皙のお顔をほころばせ、
壁からその身を浮かせた七郎次お嬢様だったのと、

 『…っ。そいつ、捕まえてくれっ!』

 そんな突然のお声とがクロスオーバーしたから、
 ……さあさあ どうしましょ。(こらこら)

その声の主は、勘兵衛とは所属が別な課の刑事さんであり、
連行して来た容疑者が、手錠を掛けられたままながら、
それでもそんな拘束を振り切っての
人の多さに紛れて往生際悪く逃げを打ちかけたのでと。
居合わせた警察官たちや、
ドア前に立っていた警備担当官に向け、協力を仰ぐと発したもの。
そんなお声とそれから、
体の前へと両手をまとめて手錠拘束されていた、
三十代でこぼこくらいの男性が、
唐突に方向転換しての出口へ向けて駆け出した、という、
その場の急展開な状況を。
視野の中であっと言う間に把握した、
さすが、柔軟な十代の女子高生だったものの。

 『…っ、七郎次っ。』
 『はいっ、……え?///////』

鋭くも切れのいい呼びかけへ、
かつての条件反射よろしく、
またぞろその身が鋭敏に反応しかかったものの。
そのすんでのところで、

  ふわりと、総身をくるみ込んだものがある

スーツ越しでも伝わる、充実した筋骨の屈強な存在感と、
男臭い精悍な匂いと温もりと。
昔も少しほど体格に差があったが、
今の二人にはもっと開きがあることを、
あらためて思い知らされたほどの間近へと。
覚えのある胸元が現れの、
そのまま雄々しい腕に搦め捕られていて。
あまりに手際のいい段取りだったため、
その刹那、何が起きたかも判らなかったほどだったが。

 『押さえ込めっ。』
 『逃げられると思ったかっ。』

そんな自分のすぐ傍ら、
ばたばたばたっと何人もが重なり合うよに飛び掛かった対象があったのへ、
はっと我に返ったときにはもう、
問題の逃亡しかかり犯は刑事さんたちに取り押さえられており。

 『…あ、あの。//////』
 『無事だったか? 七郎次。』

すまぬな、怖い想いをさせたと。
いきなり上がった罵声や緊迫した空気に竦み上がった少女と、
それを、万が一のことがないよう、
その身で庇った警部補殿…という構図になってた二人。
やはりいつぞやの聖バレンタインデーに、
逃げよと声を掛けたのを、飛び出せとの命令と勘違いした誰かさんだったの、
きっちり思い出した勘兵衛だったらしく。

 『まま、勘兵衛様にしては。』
 『そうさな。
  おシっちゃんがらみにしちゃあ、機転の利いたことだ。』

どっかの誰かさんたちが、
後日にそんな風に評したいきさつがあったのだけれど。

 “まさかにそのまま語る訳にも行かないしィ。///////”

自分を案じていればこそ、気遣ってくれるお友達を前に、
どうやって話したもんかなぁなんて、
何を思い出すのか、時々真っ赤になりながら、
もうもうもうと困惑するばかりだったのであった。


  HAPPY VALENTINE'S DAYvv





     〜どさくさ・どっとはらい〜 13.02.14.


  *やっぱこの日ならではな“主役”世代にも
   頑張っていただきましょうかということで。
   突貫ですが、
   こちらの皆さんにも
   どんな過ごし方になったかをご報告いただきました。

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

メルフォへのレスもこちらにvv


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